COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2014年12月22日 更新(連載第48回)
Leg11
闘いのクレシェンドに身を投じた修羅の日々 濱大将、闘いのボレロ
一宮弘人

Leg11 一宮弘人(1)
「いずれは年間王者になれると信じています」

プロソフトダーツトーナメントPERFECTの2014年シーズンは、12月14日の最終戦千葉大会で全日程を終了した。男子の年間総合王者は知野真澄。年間を通して安定した戦いでトップを独走し、2位に138ポイント差をつけての完勝で、昨年までの山田勇樹、浅田斉吾、小野恵太、山本信博の4強時代を強制終了させた。知野は12年に消滅したD-CROWNの元絶対王者。移籍後初めてフルシーズンを戦った昨年度は、期待されながら総合7位に甘んじ、雪辱を期していた。

その知野は27歳。ランキング2位の浅田は34歳、3位の山本は37歳。昨年まで2連覇し、今年は病気欠場もあり4位に留まった山田は31歳。そして5位樋口雄也38歳、6位小野27歳、7位大城雄太28歳と続く。PERFECTの上位は20代、30代に占められ、その大半は10代の終わりか20代の初めにダーツに憑りつかれている。

異色のアラフォー

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その中にあって、年間総合ランク8位で今年初めてトップ10入りを果たした一宮弘人は異色である。43歳。再来年にはOVER45のカテゴリーに入る年齢で、プロソフトダーツ界では”高齢”の部類。ダーツを本格的に始めたのは30歳を過ぎてからで、PERFECT初参戦も2011年の第9戦からと、他の上位選手と比すと遅い。全戦初参戦の12年は総合12位、2年目の13年シーズンは19位だった。

が、一宮はトップ10入りを手放しで喜んではいない。目指すのは遥か高み。いずれ年間王者になれると信じている。さらに、世界へも目を向けている。

3度目の準決勝

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北九州・メディアドーム、2014年3月2日。この日、当地で開催されたPERFECT第2戦の準決勝の舞台に、一宮弘人はいた。ベスト4は3度目。が、それまでの2回はいずれも勝てていない。

2014年シーズン開幕戦でベスト8入賞と好発進した一宮は、この日の1週間前に開催されたburn.でグランドファイナルを戦い、絶好調を持続していた。

burn.は言わずと知れたソフトダーツ日本1を決める大会。毎年1度、団体の枠を超えたオープンエントリーで闘う。「burn.のファイナリストになることと、PERFECTの優勝が当面の目標だった」という一宮は、全国の猛者50人余りが争った準決勝を勝ち抜け、8人で戦うグランドファイナルに進出した。

残るはPERFECTの初優勝。「今の調子なら、自分のダーツさえ打てれば誰にも負けない」。自信を持って第2戦に臨んだ一宮は、3回戦で金子憲太を、4回戦は前年3位の小野を退け、準決勝の舞台に駒を進めた。

対するは山陰の雄・治徳大伸。13年シーズンには決勝も戦った心身ともに充実期にある32歳の実力者だった。

それまで1度も勝てていない準決勝を前にしても、一宮の自信は揺るがなかった。「やればできるんだ」。小野を倒したとき、自信は確信に変わっていた。

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2014 PERFECT【第2戦 北九州】
準決勝 第1レグ「501」

一宮 弘人(先攻)   治徳 大伸(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
T20 20 T20 361 1R 20 19T 19 405
5 T20 20 276 2R 20 20 19 346
T20 T20 T20 96 3R 1 T5 20 310
20 T20 D8 0
WIN
4R

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準決勝の第1レグは一宮の先攻。第1Rは140と好発進した。後攻の治徳は1投目の20をシングルに外した後、ターゲットをT19へ。2投目は沈めたが3投目はシングルとなり、一宮が一歩リードした。

第2R。一宮は1投目をS5に外すが、2投目でT20、3投目S20となんとかゲームをつくる。一方の治徳はT20が合わず、1投目、2投目がシングル。再び19にトライした3投目もシングル。点差が開いた。

第3R。治徳が見せた一瞬の隙に一宮が牙を剥く。顔の真ん中にセットアップし、高い放物線を描いてボードに向かう一宮の矢は3本連続でT20を捕えた。治徳にTON80を打ち返す余力はなく、1投目をS1、2投目をT5に外し勝負あり。TO GO 96で迎えた第4Rは、余裕を持って3本で決着をつけた。

「4強の一角に割って入る」

前述の通り、一宮のPERFECT初参戦は2011年の第9戦、39歳のときだった。が、この年はスポット参戦で、全戦参戦したのは不惑を迎えた翌2012年シーズンから。

PERFECT参戦は遅れたが、参戦以前からダーツ関連会社でプレイヤー契約を結び、実質的なプロプレイヤーとしてのキャリアもある実力者。関東ではその存在はよく知られていた。が、勝てない。上位陣はおろか、数年前までは負けた記憶がなかった若手にも歯が立たない。何より年間を通してツアーに参戦した経験がなく、1年目は、毎月各地を転戦し、午前中から予選ロビン、午後に決勝トーナメントという「PERFECTの過酷な流れに慣れるのが精一杯」だった。

それでも12年は年間総合12位でトップ10の一歩手前で終えた。翌13年シーズンは19位。しかし、一宮はランキングを大きく落としたこの年の戦いを終えた後、確かな手応えを感じていた。

「自分はそろそろ優勝していい。(来年は)4強の一角に割って入ることもできる」――。

トップ5とは互角の戦い

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参戦3年目で優勝経験のない、ランキング19位の選手の口から出たとは俄かに信じがたい言葉に聞こえるが、はったりや根拠のない自信ではなかった。13年季の戦績は最高がベスト4で1度だけ。8強も僅かに2度で、予選ロビン落ちを2度喫している。しかし、成績以上の健闘を一宮は見せていた。4強と呼ばれていた山田、浅田、小野、山本ら上位選手との対戦がそれだ。

決勝トーナメントでは山田に1勝2敗、浅田とは2勝2敗。そして山本と1勝1敗、小野には1敗。さらにランキング5位の谷内太郎に2勝2敗で、ランキング上位の選手とは互角に渡り合った。成績が安定しないのは、決勝Tの序盤のランキング下位の選手との対戦で取りこぼしが多いのが原因だった。

事実、第6戦では浅田を倒しながらベスト16でランキング22位の選手に、第11戦では初戦でランキング82位の選手に、第18戦でも初戦にランキング99位の選手に負け、ポイントを稼ぐ間もなく試合会場を後にしていた。

上位の選手に実力で遜色はない。下位の選手との戦いで取りこぼしさえしなければ、自分はやれる。そろそろ上を狙ってもいいころだ。静かな闘志を燃やして、一宮は2014年シーズンを戦った。

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一宮は言う。「そのうち、優勝はできると思っています。年間王者にもいずれなれるはずです。世界とだって戦える日も来ます。そう信じてやっています。そうじゃなきゃ、面白くないじゃないですか。そのためには、もちろん、練習しています。ぼくはダーツの修行僧のようになりたいんですよ」

この自信と情熱はどこから来るのか。来年44歳になるこの男は、どこから来て、どこに行こうとしているのか。

(つづく)


次回は4月13日更新予定
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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。