COUNT UP!
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
Leg6 浅田斉吾(1)
「今季の目標は圧勝です」
ソフトダーツプロトーナメント 2014–PERFECTの開幕を前に、浅田斉吾に今季の目標を訊ねた。「圧勝です」と答えた。即答だった。
「最終戦まで競って、誰彼の結果次第というようなぎりぎりの優勝じゃなくて、『もう、あいつしかないね』って言うような、13年シーズンの山田(勇樹)のような勝ち方で、優勝したいと思っています」
2013–PERFECT 年間総合ランキング2位、前年3位の浅田にとって目標は年間王者しかない。が、それだけでは足りない。「圧勝」の一語には、今季にかける浅田の覚悟が滲み出ている。
1年間、優勝に見放された
終わってみれば、兵揃いのツアー20戦で3勝。3回の準優勝とベスト4で、年間総合ランキング2位。13年シーズンの浅田は、山田勇樹、山本信博、小野恵太と並ぶ四天王の地位を不動のものとし、安定した力を見せつけた。
が、本人は「年間を通して調子が悪かった」と言い、苦悩の一年を振り返った。
開幕戦こそベスト16と出遅れたが、第2戦でベスト4。第3戦、第5戦で連続して準優勝(第4戦は中止)。順調な滑り出しに見えた。が、第6戦以降苦しい戦いが続く。第12戦の広島までの7戦で、ベスト4が2回あるものの、4度の決勝トーナメント初戦敗退を喫した。
何より苦しかったのは、優勝から見放されたことだ。最後の優勝は12年7月の第8戦。以後、決勝までは駒を進めても表彰台の真ん中に立てない。1年以上、優勝の二文字から遠ざかってしまった。
盛夏、横浜
迎えた第13戦横浜大会。盛夏8月。山本がベスト32、山田、小野がベスト16で次々と姿を消す中、順調に決勝に駒を進めた浅田に千載一遇のチャンスが巡ってきた。
対するは決勝初進出の野島伶支。12年の年間ランキングは23位。下馬評は浅田の絶対有利だったが、ベスト16で小野を破り勢いに乗る、侮れない伏兵だった。
浅田は、この日も調子は最低だった、と振り返る。「最低」というのは、単純にダーツが狙い通りに飛ばないということ。しかし、1回戦は苦しんだが、2、3回戦の戦いでの中で「バシッと」来た。
第13戦 横浜大会 決勝 第1セット 第1レグ「501」
野島 伶支(先攻) | 浅田 斉吾(後攻) | |||||||
1st | 2nd | 3rd | to go | 1st | 2nd | 3rd | to go | |
S5 | T5 | S20 | 461 | 1R | T20 | S20 | S20 | 401 |
T20 | S20 | T19 | 324 | 2R | T20 | T1 | T20 | 278 |
T20 | T20 | T20 | 144 | 3R | S20 | T19 | S19 | 182 |
S20 | T20 | S16 | 48 | 4R | T20 | T20 | T10 | 32 |
S16 | OBL | D16 | WIN | 5R | – | – | – | – |
野島の先攻で始まった501。立ち上がりは両者硬く、第1Rは野島40Pで浅田はTON。第2Rは野島が137Pを削り、浅田は123P。差が縮まった。
第3R。TON80を打った野島が上がり目の to–go–144で逆転。浅田は2投目をミスし182Pを残した。
第4R。野島は1投目を外して48Pを残す。他方の浅田は to–go–32で、野島のミスを待った。が、第5Rの野島は1投目にアレンジのS16の後、3投目をD16にねじ込み、ファーストレグをキープした。
第1レグをキープされても浅田は冷静だった。決勝の舞台で、自分のダーツは掴んでいた。どうすれば狙い通りにダーツが飛ぶか、分かっていた。野島は上手いけど、初めての決勝に重圧を感じているはず。互いのプレッシャーの軽重は考えるまでもなかった。「次は100%とキープできるし、その次も取れる」
ゲームは浅田が思い描いていた通りに進んでいくことになる。
誤解
楽屋話を告白すると、浅田斉吾のインタビューに出かけるときは、少し気が重かった。ちょっと怖かったのである。
試合会場で見る浅田には、圧倒的な存在感がある。他者を寄せ付けない殺気がある。加えて、身長185㎝の格闘家のような体躯である。気軽に「調子どう?」などと話しかけられる雰囲気はない。
何人かのプレイヤーに聞いてみても、「見かけによらず、気さくな人ですよ」などという、こちらが待ち望む芳しい話は返ってこない。誤解を恐れずに言えば、試合会場で遠目に映る浅田は「気難しく」「怖い」人なのである。格闘家のような体躯を持った気難しく怖い人に、いそいそと話を聞きに行くインタビュアーは、それほど多くない。
もちろん、誤解だった。誤解であればこそ、楽屋話ができる。実際にお会いした浅田は、試合会場で見る姿とは別人だった。気難しくも怖くもない。人懐っこい笑顔が印象的な、無邪気で少年の心を持った人だった。
浅田斉吾は、誤解されやすい人なのだ。それには、浅田斉吾という勝負師の生き方と深い関係がある。
(つづく)
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- 小野恵太(1)「試合に負けて、あんなに泣いたのは、初めてでした」
○ライター紹介
岩本 宣明(いわもと のあ)
1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。
京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。
著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。