COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2013年9月2日 更新(連載第3回)
Leg1
打ち砕かれた決意、そして再び試される恵太の信念!
小野恵太

Leg1 小野恵太(3)
「プロなんて考えたことありませんでした。運がよかったんです」

COUNT UP!

2013年3月10日、北九州・砂津港、曇天。前日の春を幻と疑わせるほどの、冷たい風が吹いていた。

桟橋にほど近い西日本総合展示場で、パーフェクト第3戦北九州大会は開催された。優勝を逃し号泣した神戸からわずか1週間。小野恵太は再び、決勝の舞台にいた。観客席最後部で星野が見つめるのも同じ。北九州を最後に移籍が決定していた

対するは前年総合ランキング3位の浅田斉吾。1位の山田勇樹、2位の山本信博に浅田、小野を加えた4人は、全17戦中14戦で優勝を寡占し、「四天王」とも「ビッグ4」とも呼ばれる。恵太を除く3人は同じトリニダードの所属。今季の年間総合レースは、軍団に恵太が挑む構図が、ファンの関心を集めている。

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第3戦 決勝 第3セット 第2レッグ 「クリケット」

小野 恵太(先攻)   浅田 斉吾(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
T5 S20 T5 0 1R T20○ T1 T20 60
T19○ S19 T19 76 2R T20 T19● S20 140
T18○ T18 T18 184 3R S20 S20 S20 200
T1 T20● T18 238 4R S17 S17 S17○ 200
S17 T17● T18 292 5R T16○ T16 T16 296
S18 S4 T18 364 6R T16 S16 T16 408
T18 S18 T16● 436 7R S15 T15○ S18 423
S15 T15● S1 436 8R S7 OBL D18● 423
S15 OBL OBL 436 9R OBL OBL○ OBL
WIN
448
○=OPEN ●=CUT OBL=アウトブル

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第3戦の決勝はセットカウント1ー1で第3セットに突入した。第1レッグをブレイクし、先攻で迎えた第2レッグ、クリケット。1Rを1マークと出遅れた恵太は、3Rで9マークを打ち形勢を逆転した。中盤はどちらも決定力を欠き、一進一退。爆発力の恵太に、浅田の安定感。どちらも持ち味を出せない。

8R。恵太は2投で浅田の15をカットし、優勝に手をかけた。が、ダメ押し点を獲りに行った3投目に、まさかのミスショット。浅田が恵太の18をカットし、436-423の僅差で9Rを迎える。

先攻の恵太がブルをオープンすれば優勝が決まる。が、3投で決められず、浅田がブレイク。勝負は最終レッグに雪崩れ込んだ。

プロへ。そして星野と

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08年秋、思いもよらぬ知らせが届いた。バレルメーカーのアルティマダーツから、物品を支給するスポンサー契約のオファー。8月に対戦した畠中宏が推薦してくれたと聞いた。

翌09年の夏には、地元江戸川区小岩のダーツバーNIPともスポンサー契約。大会にエントリーする費用の支援を受けることになった。

当時の恵太は地元では敵なし。強くなるために、もっと大会に出たい。全国の猛者とも切磋琢磨したい。が、旅費と参加費が枷(かせ)となり、ままならなかった。翼を得た恵太は、東北、東海へと行動範囲を広げる。出場できる大会も増え、試合で少しずつ結果が出るようになった。スポンサー契約が恵太の飛躍を後押しした。

明けて10年1月。ダーツのプロプレイヤーをマネジメントするプロダクションから、声がかかる。

「ダーツのプロにならないか」

パーフェクト全戦参戦にかかる費用の一切を事務所が負担するという話だった。断る理由は見当たらなかった。

「その話をいただくまで、プロになるつもりは、まったくありませんでした。運がよかったんです」

現役大学生のプロダーツプレイヤー、小野恵太は、数々の出会いに恵まれて誕生した。

そして4月。2010年パーフェクトツアー第3戦横浜大会で、恵太は星野とまみえた。決勝トーナメント2回戦。炎の皇帝の前に1レッグを奪うのが精一杯だった。が、そのダーツに男惚れした。

勝ちたい気持ちが、ダーツを狂わせる

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北九州大会決勝第3セット第2レッグを振り返って、恵太は言う。

「神戸のことがあったんで、多分、ぼくが一番優勝を意識してたんだと思うんです。それが準決勝まではよく作用したんですが、あそこでは裏目に出たんです。冷静を保とうとしてもなかなか冷静になれなくて。微妙に力が入ってしまったんです」

優勝が近づいた瞬間、指先にほんの少しだけ、いつもより力が入った。プロの試合ではそれが命取りになる。ダーツがターゲットからほんの少し逸れる。「勝ちたい」「勝たなきゃいけない」――その強い思いが、恵太のダーツを狂わせていた。

(つづく)


次回は4月13日更新予定
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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。