COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2013年9月17日 更新(連載第5回)
Leg2
茨の道を歩み始めた一人の野武士 あまりにも険しい試練!
山本信博

Leg2 山本信博(1)
「プレッシャーはない。不振の原因は練習不足」

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2013年シーズンの初め、山本信博は不振に喘いでいた。

PERFECTに初めて全戦参戦した昨季は、最多勝の優勝5回、準優勝3回、ベスト4に2回の成績で、目覚ましい活躍を見せた。年間総合ランキングは11年の26位から2位に飛躍。今季の開幕前には、年間王者最右翼の一人と目されていた。もちろん、山本自身、他に目標はなかった。

なのに勝てない。プレイの正確さから、精密機械と評される山本のダーツが精彩を欠く。開幕の横浜で決勝トーナメント2回戦敗退。第2戦の神戸でも、第3戦の北九州でも2回戦で負けた。優勝はおろかベスト16にすら進めない。あの山本にいったい何が起こっているのか。ツアーを見守る関係者、ファン、ライバル…。ダーツ雀たちの間で、さまざまな憶測が飛び交っていた。

職業 ダーツプレイヤー

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姓名 山本信博
 年齢 36歳
 出身地 福岡県北九州市
 家族 独身
 職業 ダーツプレイヤー

地盤改良工事の職能を持つ職人だった山本は、2013年初頭、高校卒業以来続けてきたその職を辞した。他に本職を持つ兼業プレイヤーから、ダーツ一本に生活を賭ける専業へ。新たな決意を秘めて迎えたシーズンだった。

プロ資格テストに合格し、PERFECTに登録するプロは男子約1000人、女子約300人。プロ選手を抱えるダーツの団体は他にもある。その中で、ダーツだけで生計を立てられるプレイヤーはほんのひと握り。大半は他に職業を持ちながら、時間のやりくりをして練習に励み、ツアーに参戦する。

兼業プレイヤーにも二通りある。ダーツとは関係のない仕事を持つ人と、ダーツショップやダーツバーの経営など、ダーツ関連の仕事をしながらプレイヤーとしても活躍するプロたち。

登録プロのうち、全戦に出場するプロ中のプロと言えるプレイヤーは約100人。登録者全員がツアーに参戦しているものの、出場3戦以下の選手が半数を超え、多くは地元に近い都市などで開催される大会にスポット参戦する。2011年までは山本もその一人だった。

不振の原因は、重圧か?

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山本不振の原因はプレッシャーに違いない。ツアー関係者の見方はほぼ一致していた。ダーツを専業としたことからくる重圧と環境の変化がプレイを狂わせているのだ、と。

しかし、山本はその憶測をさらりと否定した。
「それは、関係ないっす」

 では、不振の要因は何か。問うと、練習不足と、そこから派生する技術の問題だと説明した。

全国各地を年間20戦転戦するツアーに、兼業で参戦するのは過酷だ。昨年初めて全戦参戦に挑んだ山本は、開幕前に「1勝もできなければ、プロは辞める」と決めていた。その、不退転の決意で臨んだ2012年ツアーで結果を残した。達成感の後に襲ってきた虚脱感。それに抗うことができなかった。

「ランキング2位は気に食わないですけど、1年間出られたっちゅう達成感がでかかったんですよ。で、虚脱感やないですけど、今年の開幕前に、全然、ダーツできんくなって、準備不足のまま開幕を迎えてしまったんです」

が、たとえ山本自身に不振の原因が明確で、いくら「重圧説」を否定しようとも、周囲の憶測は変わらない。雑音は結果で払拭するしかない。それがプロの世界だ。

4月、第5戦(第4戦は中止)山形大会。山本の反転攻勢が始まる。

ZOOM UP LEG

第5戦 山形大会 決勝 第1セット 第1レグ「501」

浅田 斉吾(先攻)   山本 信博(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
S20 T20 T20 361 1R T20 T20 T20 321
T20 T20 T20 181 2R T20 T20 S20 181
T20 S20 S20 81 3R S20 T20 T20 41
S19 S12 SB 25 4R S9 D16 WIN

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前年度優勝5回ランク2位の山本と、優勝4回ランク3位の浅田斉吾が直接対決する、今季PERFECTの看板ゲームの一つ。

コイントスで、ファーストレグは浅田の先攻で始まった。第1Rは浅田140P、山本TON80。第2Rは浅田がTON80を打ち、山本は140P。序盤から両者譲らぬ緊迫した展開となった。

浅田残り81、山本41で迎えた第4R。T19をターゲットにした浅田の第1投はS19に。続く2投目をS12にアレンジし、残り50。浅田のキープと思われたが、放ったダーツはOB(25P)に。

チャンスを得た山本はアレンジのS9、レグショットのD16を正確に射止めブレイク。試合の主導権を握った。

「勝負はファーストレグと思ってました」

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山形大会の決勝を振り返える山本は、雄弁だった。「多分ですけど、あの決勝は1レグ目が全てやったと思います」

同じ関西を拠点とする浅田とは、所属事務所も同じ。週末はほぼ毎週、ツアーやイベントで活動を共にし、「斉吾ちゃん」「信さん」と呼び合う仲。互いに頭角を現してからの戦績は互角で、相手の実力も性格もプレイスタイルも知り尽くしている。

「この日の斉吾ちゃん見とって、(調子が良かったから)自分のマックス出さな試合にならんとわかっとったんです。で、コークで後攻めになったとき、これをブレイクできたら優位に立てる、って思いました」

試合中にゲームの展開が頭を巡るとき、精密機械はその輝きを増す。開幕当初にはなかったことだ。もちろん、それには理由がある。

(つづく)


次回は4月13日更新予定
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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。