COUNT UP!
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
Leg2 山本信博(5)
「1勝もできなければ、プロは辞める」
3年間の低迷
09年5月、山本信博はプロダーツプレイヤーとしての一歩を踏み出した。が、そこからの道のりは順風満帆だった訳ではない。スポンサードは受けたものの、トッププロとはかけ離れた条件。ツアーの参加は自腹で、仕事を続けながら、地元や出張先から近い大会にスポット参戦する日々が続いた。
途中参戦した09年は5戦に出場しランク34位。翌年は13戦中7戦に参戦しランク26位。ベスト8の常連にはなったが、表彰台にのぼれたのは、3位タイのデビュー戦だけだった。
11年初頭、伸び悩んでいた山本に、救いの手が差し伸べられる。山田勇樹、浅田斉吾らトッププロを多数抱えるPERFECTの最大勢力「TRiNiDAD」からの誘いだった。しかも、下積みのテスターを飛び越して、プレイヤーとしての契約。ツアー参加は自費だが、月ごとに契約料が支払われ、ユニフォームや用具が支給される。実績のない選手には異例の好条件で、「社長(福永和正さん)が絶対に大物になるから取りたいと言っている」と説明を受けた。
しかし、プロ野球で言えば、ジャイアンツのユニフォームを纏って挑んだ11年ツアーでも、結果は残せなかった。事務所の支援を受け14戦中11戦に参戦しながら、ベスト8が最高でランクは前年と同じ26位。技術には自信も自負もあったが、星野や山田らビッグネームを前にすると、自分のダーツができなくなり、互角に戦いながらあと一歩のところで競り負ける試合が続いた。自分の甘さを痛感した。
「これ以上、甘えられない」
11年シーズン終了直後、山本は翌12年シーズンの全戦参加を決意する。同時に、「1勝もできなければ、プロは辞める」と決め、自らを追い込んだ。
仕事を持ちながらツアーに参戦するのは過酷だ。現場仕事がある日は朝5時過ぎに起きる。練習できるのは、週3日夜の2時間ほどが精一杯。大会の前は金曜の夜に長距離の移動。試合が終わったら、その足でとんぼ返り。
大変なのは本人だけではない。ツアーに出場するために多くの人に迷惑をかけたり、助けてもらったりしている。土日の仕事を代わって応援してくれる仲間。仕事の現場から空港や駅への送迎をかってでてくれた地元のダーツショップ。そして、実績のない山本と契約してくれた事務所…。恩はダーツで返すしかない。だから、来年も鳴かず飛ばずなら、これ以上は甘えられない――。
悲壮な決意を胸に、山本は年末から練習量を増やす。競り負けた試合の録画を何度も見て、状況を思い出しながら練習を繰り返した。
破竹の快進撃
迎えた12年シーズンの開幕戦。決勝トーナメント3回戦で小野恵太、4回戦で星野光正、ベスト8で大城雄大、準決勝で山田勇樹、PERFECTのビッグネームを次々と撃破し、初めて決勝の舞台に立った。
優勝は浅田斉吾に譲ったものの、デビュー戦以来の表彰台で自信を得た。6月、第5戦愛媛大会で初優勝を飾ると、あとは破竹の快進撃。第6戦新潟も制し連覇、第9戦仙台、第12戦沖縄、最終戦の千葉で勝利を重ね、年間最多勝のタイトルを手にした。
「全戦出場するなら年間王者を狙う」。胸に秘めていた目標こそ達成できなかったが、年間ランキングは2位。押しも押されぬトッププレイヤーの仲間入りを果たした。
(つづく)
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- 山本信博(4)「ダーツはトップが近い、と思ったんです」
- 山本信博(3)「ぼくだけだと思うんですけど、劇的に上手くなったんですよ」
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- 小野恵太(2)「こんなに悔しい思いをするんなら、もっと上手くなりたいと思ったんです」
- 小野恵太(1)「試合に負けて、あんなに泣いたのは、初めてでした」
○ライター紹介
岩本 宣明(いわもと のあ)
1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。
京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。
著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。