COUNT UP!
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
Leg3 浅野眞弥・ゆかり(1)
「PERFECTで優勝するのは、簡単ではないと感じました」
2013年シーズン。PERFECTに新風が吹いている。ときに戦ぎ、ときに吹き荒れる。
大城明香利=女子ランキング1位(9月末現在)、浅野ゆかり=同7位、大内麻由美=同10位、知野真澄=男子同9位、松尾伯挙=27位、そしてダーツ界の大御所、浅野眞弥、佐藤敬治…
彼女・彼らはいずれもD-CROWNからの移籍組。固い絆で結ばれた一団が、今年からツアーに本格参戦し、旋風を巻き起こしている。
中でも注目を集めたのが、絶対女王としてD-CROWNに君臨した浅野ゆかりだ。ハードダーツ界では長く日本代表の座に名を連ね、世界を舞台に活躍。その名を知らぬ者はいない。
女王対決に熱い視線
D-CROWNは07年にスタートした、日本で2つめのソフトダーツのプロツアー。11年には、トップ選手が団体戦で戦うPERFECTとの対抗戦も実現したが、昨季、財政難で空中分解。D-CROWNのプレイヤーの多くが、シーズン途中からPERFECTに合流した。
浅野がD-CROWNの女王なら、PERFECTには松本恵がいる。11年まで3連覇、12シーズンも第10戦までランク1位を堅持していた。二人は一度だけの団体対抗戦で直接対決し、このときは浅野に軍配が上がった。
浅野は新天地でも絶対的な力を見せるのか。それとも、PERFECTの女王がリベンジを果たすのか。浅野の参戦で、女王対決に熱い視線が注がれた。
屈辱の予選落ち
が、浅野はPERFECTでなかなか勝てない。Dの女王としてのプライドと重圧に、思わぬ苦戦を強いられる。
昨季、初参戦の第10戦は2回戦で、同じD出身の大内麻由美に敗退。第11戦岡山大会では、準決勝で早くも女王対決を実現させたが、レグカウント0-3で惨敗。その後も精彩を欠き、予選落ちの屈辱を2度も味わった。
雪辱を期した今季も開幕横浜大会は2回戦敗退。第2戦の神戸ではベスト8で再び松本恵と対戦し、またも惨敗した。
浅野はD-CROWNの消滅で、燃え尽きてしまったのか。PERFECTでその輝きを取り戻す日が来るのか。周囲をやきもきさせた浅野本人にも、不安が過っていた。
迎えた第3戦北九州大会。2回戦で大内を、準々決勝では、昨季ランク6位の岡田まゆみを下して、準決勝に勝ち上がった。
待っていたのは、開幕戦ベスト4、第2戦優勝、今季絶好調の新星、今野明穂。戦いを前に、今野有利の下馬評が大勢を占めた。
第3戦 北九州大会 準決勝 第1レグ「701」
浅野 ゆかり(先攻) | 今野 明穂(後攻) | |||||||
1st | 2nd | 3rd | to go | 1st | 2nd | 3rd | to go | |
S1 | B | S15 | 635 | 1R | B | B | S7 | 594 |
S17 | B | S7 | 561 | 2R | B | B | S17 | 477 |
S20 | S7 | S9 | 525 | 3R | B | B | S11 | 366 |
B | B | B | 375 | 4R | B | B | B | 216 |
S9 | S9 | S8 | 356 | 5R | B | B | B | 66 |
B | B | S12 | 244 | 6R | S16 | S16 | D17 | WIN |
第1レグは浅野の先攻。が、有利を活かせない。第1Rは1投目をS1に、3投目をS15に外し66P。第2Rも2本、第3Rは3本すべてブルを外した。他方、後攻の今野は第3Rまで2本ずつブルに入れる安定ぶり。浅野TO GO 525、今野336の大差がついた。
迎えた第4R。意地を見せた浅野がハットトリック。が、今野がハットを返して勝負あり。浅野が5Rで再び3本外すと、今野は2R連続のハット。第6Rで決着をつけた。
想像を超えた激戦の場
PERFECT参戦当初を振り返って、「やりにくかった」と、浅野ゆかりは言う。
「PERFECTとD-CROWNとでは、雰囲気が全然違いました。Dは仲間意識が強くて、試合中もみんな、きゃっきゃ、はしゃいでる感じだったんですが、PERFECTはプロ意識が強くて、凄くちゃんとしてるんです。今まで一緒に投げていた仲間が少なくなった寂しさもあって、小さくなって、差し込まれる感じもありました」
それに、と浅野ゆかりは続けた。PERFECTは想像していた以上に選手層が厚かった、と。
「トップの実力は互角ですけど、その一つ下のレベルの選手層が厚いんです。だから、予選でも、決勝ラウンドの1、2回戦でも簡単に勝たせてもらえない。優勝できないとは思いませんでしたが、難しいことだと感じました」
D-CROWN時代、無敵を誇った女王を迎えた新天地は、想像を超えた激戦の場だった。
D-CROWNは、ソフトダーツ機器メーカーのD-1を母体に、07年に設立された。PERFECTに1年遅れをとったが、数年で実力では互角以上と評されるまでに成長した。
女子の看板プレイヤーは浅野ゆかり。そして、その設立に深く関わり、ソフトダーツの普及に大きく貢献したのが、夫の浅野眞弥だった。
(つづく)
- 【Leg15】大内麻由美 覚醒したハードの女王
- 大内麻由美(3)最初から上手かった
- 大内麻由美(2)父の背中
- 大内麻由美(1)「引退はしません。後は、年間総合優勝しかありません」
- 【特別編】2016 年間チャンピオン - インタビュー
- 大城明香利 初の3冠に輝いたPERFECTの至宝
- 浅田斉吾 年間11勝 ―― 歴史を変えた“ロボ”
- 【Leg14】知野真澄 みんなの知野君が王者になった。
- 知野真澄(6)「ちゃんと喜んでおけばよかったかな」
- 知野真澄(5)「絶対に消えない」
- 知野真澄(4)10代の「プロ」
- 知野真澄(3)「高校生なのに、上手いね」
- 知野真澄(2)お坊ちゃん
- 知野真澄(1)3冠王者誕生
- 【Leg13】今野明穂 うちなーになった風来女子、その男前ダーツ人生
- 今野明穂(6)お帰り
- 今野明穂(5)プロの自覚
- 今野明穂(4)どん底
- 今野明穂(3)ニンジン
- 今野明穂(2)沖縄に住みたい
- 今野明穂(1)今野 Who?
- 【Leg12】山田勇樹 PRIDE - そして王者は還る
- 山田勇樹(6)がんからのプレゼント
- 山田勇樹(5)…かもしれなかった
- 山田勇樹(4)決断と実行
- 山田勇樹(3)強運伝説
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- 【Leg11】一宮弘人 この手に、全き矢術を
- 一宮弘人(5)ダーツを芸術に
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- 一宮弘人(2)「自由奔放に生きてやる」
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- 門川美穂(4)死の淵からの帰還
- 門川美穂(3)3.11――死線を彷徨った
- 門川美穂(2)PERFECTの新星
- 門川美穂(1)鴛鴦夫婦
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- 大城明香利(4)「5年後に世界を獲れたら面白いですね」
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- 大城明香利(2)勧学院の雀
- 大城明香利(1)決勝に進むのが怖くなった
- 【Leg8】谷内太郎 - The Long and Winding Road ― 這い上がるダンディ
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- 谷内太郎(3)「竹山と闘いたい」
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- 谷内太郎(1)「長かった」
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- 樋口雄也(4)「ダーツは自分の一部です」
- 樋口雄也(3)テキーラが飛んでくる
- 樋口雄也(2)理論家の真骨頂
- 樋口雄也(1)悲願の初優勝
- 【Leg6】浅田斉吾 - 「浅田斉吾」という生き方
- 浅田斉吾(6)家族――妻と子
- 浅田斉吾(5)兄と弟
- 浅田斉吾(4)両刃の剣
- 浅田斉吾(3)「ラグビー選手のままダーツを持っちゃった感じです」
- 浅田斉吾(2)「最速は、僕です」
- 浅田斉吾(1)「今季の目標は圧勝です」
- 【Leg5】今瀧舞 - 熱く、激しく、狂おしく ~ダーツに恋した女
- 今瀧舞(6)「現役を引退しても、ずっとダーツと関わっていたいと思います」
- 今瀧舞(5)「ダーツがやりたくて、離婚してもらいました」
- 今瀧舞(4)涙の訳
- 今瀧舞(3)「神様は超えられる試練しか与えない」
- 今瀧舞(2)「観客席の空気を変えるダーツがしたい」
- 今瀧舞(1)「ダーツを始めてから、テレビはほとんど見ていません」
- 【Leg4】前嶋志郎 - ダーツバカ一代
- 前嶋志郎(3)「ダーツ3本持ったら、そんなこと関係ないやないか」
- 前嶋志郎(2)「ナックルさんと出会って、人のために何かがしたい、と思うようになりました」
- 前嶋志郎(1)「ダーツ界の溶接工」
- 【Leg3】浅野眞弥・ゆかり - D to P 受け継がれたフロンティアの血脈
- 浅野眞弥・ゆかり(4)生きる伝説
- 浅野眞弥・ゆかり(3)女子ダーツのトップランナー
- 浅野眞弥・ゆかり(2)「D-CROWN」を造った男
- 浅野眞弥・ゆかり(1)「PERFECTで優勝するのは、簡単ではないと感じました」
- 【Leg2】山本信博 - 職業 ダーツプレイヤー ~求道者の挑戦~
- 山本信博(6)「結局、練習しかないと思っているんです」
- 山本信博(5)「1勝もできなければ、プロは辞める」
- 山本信博(4)「ダーツはトップが近い、と思ったんです」
- 山本信博(3)「ぼくだけだと思うんですけど、劇的に上手くなったんですよ」
- 山本信博(2)「余計なことをあれこれ考えているときが、調子がいいんです」
- 山本信博(1)「プレッシャーはない。不振の原因は練習不足」
- 【Leg1】小野恵太 - 皇帝の背中を追う天才。
- 小野恵太(4)「星野さんを超えた? まったく、足元にも及びません」
- 小野恵太(3)「プロなんて考えたことありませんでした。運がよかったんです」
- 小野恵太(2)「こんなに悔しい思いをするんなら、もっと上手くなりたいと思ったんです」
- 小野恵太(1)「試合に負けて、あんなに泣いたのは、初めてでした」
○ライター紹介
岩本 宣明(いわもと のあ)
1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。
京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。
著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。