COUNT UP!

COUNT UP! ―― PERFECTに挑む、プロダーツプレイヤー列伝。
―― PERFECTに参戦するプロダーツプレーヤーは約1,700人。
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
2014年2月24日 更新(連載第27回)
Leg6
「ファイター」という称号を纏った一人の男、その戦いのバラード
今瀧舞

Leg6 浅田斉吾(4)
両刃の剣

浅田斉吾のダーツには強さと脆さが同居している。13年のツアーを1年間観戦し、そう感じる場面が散見された。勝負師としては弱点なのかもしれないが、ファンからすれば人間味溢れる魅力とも映る。

浅田の盟友山本信博は「技と気持ちが噛み合った時の斉吾ちゃんには、誰も勝てない」と、その強さを解説する。その強さを遺憾なく発揮したのが、横浜大会だった。

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2013 PERFECT【第13戦 横浜】
決勝 第2セット 第2レグ「クリケット」

野島 伶支(先攻)   浅田 斉吾(後攻)
1st 2nd 3rd to go   1st 2nd 3rd to go
T20○ T20 T20 120 1R S19 S19 S19○ 0
S19 D19● S18 120 2R S18 T18○ T18 72
S18 S18● S20 140 3R ×(S3) T17○ T17 123
S17 ×(OB) S20 160 4R T17 T20● S17 191
S16 ×(T8) ×(T8) 160 5R S16 T16○ ×(T10) 207
S15 S15 T15○ 190 6R T15● OBL T17 258
IBL ×(S14) OBL 190 7R OBL OBL
WIN
258
○=OPEN ●=CUT OB=アウトボード IBL=インブル OBL=アウトブル

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浅田の1レグアップで迎えた第2レグ。先攻の野島が第1R9マークの滑り出しで、3マークの浅田に対し優位に立った。

が、野島は第2R以降崩れる。第2Rは2投で浅田の19をカットするも、3投目にオープンにいった18はシングルとなり4マーク。第3Rは3マークで加点は20P。第4Rではカットに行った2投目をオーバーボードし2マーク。この間、浅田は3R連続で7マークを打ち、18、17の陣地を獲り野島の20をカット。ポイントでも逆転した。

あとは浅田のワンサイド。第5Rの野島は1マークしかとれず、浅田に突き放される。第6Rでの3投目、インナーブルでWINの浅田は、安全策をとりプッシュ。勝負は第7Rに決した。

「剛」と「脆」

昨年のある日のブログで、浅田は「ぼくはメンタル弱いですけど」と書いている。インタビューでこの点を訊ねると、「いや、メンタルでは誰にも負けません」と、即座に否定した。が、別の話のときには「メンタルが課題」とも。いったい、どういうことなのだろうか。

浅田の強さは「剛」の強さだ。目の前の相手を薙ぎ倒す。ラグビーのスクラムに例えれば、テクニックではなく、重量とパワーで押しまくる強さ。もちろん、ダーツを始めて僅か1ヶ月でAフライトに上り詰めた浅田の技術は折り紙つきだ。が、イメージは柔ではなく、圧倒的に剛。が、その剛はときに脆い。

脆さを象徴する場面の一つに、第19戦熊本大会がある。年間王者争いで、それまでランキング1位の山田勇樹の独走に待ったをかけるには、ラストチャンスの大事な試合のベスト16で、浅田はベテランの一宮弘人と対戦した。

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両者1ブレイクで迎えた第3レグ。先攻の一宮が開始前に、レフリーに何事かを訴える。するとレフリーは順番待ちの浅田に歩み寄り、耳打ちした。試合は再開されるが、浅田の様子が変わる。見ていて分かるほど、体全体からいらいらした雰囲気が滲みでる。いらいらはプレイにも微妙な影響を与え、浅田は第3レグで一宮に簡単にキープを許した。第4レグをキープしフルレグに持ち込んだものの、第5レグのコークで大きく的を外す。先攻を一宮に与え、ずるずると敗退した。

一宮が指摘したのは、試合が行われていたメインステージの床の揺れだった。それまで気持ちよくプレイしていた浅田はまったく気にしていなかった。が、レフリーに説明を受けた浅田は、逆に、揺れが気になり始める。「試合中に、そんなこと言う必要があるのか」。不満がレフリーに向けられ、いらついた気持ちを消化できないまま、ゲームセットを迎えてしまった。

浅田は言う。「気質でしょうね。細かいことで、いらいらすることがあると、試合中に不貞腐れてしまっているんです。コントロール(運営スタッフ)の方がよかれと思ってやってくれていることにいらいらしちゃうことがあるんです。で、黙っていられない性質なので、クレームを言ってしまうんです。それで、いろんな人に迷惑をかけてしまって、翌日になると、ごめんなさい、って成るんですけど。そういうところが、プレイもに影響してしまうんです」

誤解 ―― 二人の浅田

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インタビュー前、浅田について、プレイヤーや関係者に訊ねたが、芳しい評判はあまりなかった。「すれ違いざまに道をよけない」「ぶつかっても謝ってくれない」「怖い」…。しかし、実際にお会いした印象は、拍子抜けするほどの好青年。いったい、このギャップはなんなのか。そして、「メンタルは誰にも負けない」と言うときと、「メンタルが課題」と言うときのギャップは?

おそらく、このギャップは、ラグビーで培われた浅田の勝負師としてのメンタリティによるものだ。ラグビー選手に限らず、格闘技の選手の多くは、試合中に人格が変わっている。普段は物静かで優しい人が、闘争心剥き出しの仁王と化す。試合中の浅田もまた、そのような人格の変化を起こしている。

試合に臨む浅田の眼中には、相手を倒すことのほか、なにも見えていない。試合場への出入りですれ違う他の選手のことなど見えていない。ぶつかったことさえ、気付いていないのかも知れない。納得できないことがあれば、かっとなって、クレームに及ぶ。しかし、それはあくまで、出番待ちの時間を含む試合中のことであり、普段の浅田の姿ではない。浅田は二人いる。浅田は誤解を受けている。

「試合では120%」

浅田と盟友の山本に関して、興味深い逸話がある。二人は同じ関西に住み、同じTRiNiDADにサポートを受けている。ツアーでは行動を共にし、一緒に練習することも多い。

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公式戦での対戦成績は互角。が、練習では圧倒的に山本が強い。トッププロ同士だから、まったく歯が立たないということではないが、「練習では信さんがずっと上」と浅田は言う。「試合では信さんが練習の80%、ぼくが120%。それで五分。メンタルではぼくが上なんです」

では、「メンタルが弱い」というのは、どういうことなのだろうか。改めて問うと浅田はこう自己分析した。「弱いというか、行き過ぎてしまうんです。目の前にいる相手を倒す気持ちでは誰にも負けてないと思うんですが、気持ちが強くなり過ぎて、ちょっとのことでいらいらしてしまうというか…」

スイッチの入った浅田は自己制御能力を失っている。突き進んでいけるときは、絶対的な力を発揮するが、横槍に脆く崩れることがある。今のところ、浅田のメンタルは「両刃の剣」。それは、浅田自身も自覚している。

「メンタルの部分が噛み合えば、もっと良い成績が残せると思っています」。激しい闘争心を失わないまま、自己制御能力を身につけたとき、浅田は王者への階段を駆け上っていくに違いない。

(つづく)


次回は4月13日更新予定
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○ライター紹介

岩本 宣明(いわもと のあ)

1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。

京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。

著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。