COUNT UP!
彼ら彼女らは、何を求め、何を夢み、何を犠牲に戦いの場に臨んでいるのか。実力者、ソフトダーツの草創期を支えたベテラン、気鋭の新人・・・。ダーツを仕事にしたプロフェッショナルたちの、技術と人間像を追う。
特別編 浅田斉吾
年間11勝 ―― 歴史を変えた“ロボ”
PERFECT2015年シーズンは、12月12日、千葉・幕張メッセの最終戦で全日程を終了し、翌日、年間授賞式が開催されました。年間チャンピオンは、男子が史上最多の11勝をあげた浅田斉吾選手が初制覇、女子は年間6勝の大城明香利選手が2年ぶり2度目の女王の座を射止めました。両選手とも、シーズン途中からチャンピオンレースを独走し、最優秀PPD、最優秀MPRを加えた3冠に輝く圧勝でした。
COUNT UP! では特別編として、2回に渡り年間チャンピオンインタビューをお送りします。第1回目は、念願の初制覇を遂げた浅田斉吾選手です。(聞き手=COUNT UP!著者・岩本宣明)
「一戦一戦を大切に」
――年間総合優勝おめでとうございます。率直なお気持ちからお聞かせください。
[浅田] 素直に嬉しいです。
――13年、14年と連続で2位。特に昨年は知野選手に独走を許し、随分悔しい思いをされたと思いますが、どんな気持ちでシーズンに入りましたか?
[浅田] 絶対に年間王者を獲るとか、そういう気持ちはありませんでした。こんな結果になると思ってやっていた訳でもありません。あまり気負ってもダメかなと思って。ランキングなどを意識しすぎるとどうしても焦ってしまうんです。それでこれまで結果が出ていなかったので、地道にいい成績を、っていう感じですかね。絶対勝つと言うのはありましたけど、年間を通しての目標ではなく、一戦一戦を大切にと思って、開幕を迎えました。
――それにしても、今季は記録ずくめの驚くべき成績です。年間11勝は勿論ですが、昨年知野選手が作った4連勝の大会連勝記録も更新し5連勝。さらに決勝トーナメント96勝6敗も過去最高の記録です。あまりの正確無比なダーツに「浅田ロボ」という新しいニックネームまで生まれました。ここまで安定した成績を残せた理由はどこにあったと思いますか?
[浅田] 一つには、調子を維持するためのいいルーティーンが確立できたのが良かったと思います。試合前にやみくもに投げ込むことはやめ、しっかり休養をとる。フォームにも、これまでは強いこだわりがありましたが、あまりこだわり過ぎず、そのときの状態で出来る中で一番いいと思う投げ方にシフトするというように変わりました。結果、調整が上手くいったので、勝つために力でねじ伏せようとか、無駄な力が抜けて、焦りがなくなり、出る試合に勝って行こうと思えるようになりました。
それから、去年の知野君もそうですが、「勝ち癖」というのがあると思うんですよ。一回勝つと、気持ちが楽になって次も勝ちやすい。毎回、調整も上手くいっているからミスが少なくなり、気持ちにも余裕があるからまた勝てる。その好循環がありました。
「もっと早くできていなければいけなかった」
――技術的なことや戦術では何か変化はありましたか?クリケットでは、加点をせずにどんどん陣地をオープンしていくような戦術が見られました。
[浅田] 技術的にはフォームにこだわり過ぎるのをやめた以外、何も変わってません。自分では毎回少しずつ変えてはいますが、フォームはもう体に染みついていますから、他人から見て分かるような変化はありません。戦術では、好調を維持できてスタッツも良かったので、相手を見て戦術を変えることができました。クリケットなら、相手にスイッチが入っていないと思ったら、調子が出る前に試合を早く終わらせるために、加点よりオープン。相手が打てているときは、力勝負にして長丁場にした方がいいと思って、加点を重視しました。スタッツでは自分の方が上だったので、長く打ち合えば必ずその差が出ると思っていました。
――年間総合優勝を決めた時は、拍子抜けするほど淡々とされていましたが、理由はありますか?
[浅田] とくに理由はなく、自然にそうなっただけです。これまで3位、2位、2位と来ていましたから、年間王者へのプレッシャーも感じませんでした。これまでにもっと早くできていなければいけなかったことが、やっとできたというだけのことやと思っています。
――今期僅か6敗ですが、最終戦は別として、その前に負けた5人に対しては、必ず次の試合で圧倒してリベンジしています。特に意識したということはありましたか?
[浅田] 特別な意識はないです。が、沖縄で負けた金子君には次の大会で、いいスタッツで勝ちましたね。それから、韓国の試合で西君に負けた後は、次のPERFECTでは西君との対戦が山だと思って、そこに照準を絞って挑みました。
ツアーを一緒に回ってくれたファンの支え
――昨年までは、試合中に突然イライラし始めて自滅するような試合が、少なからずありました。COUNT UPに浅田さんを連載したときにも、精神的にそれが克服出来たら、浅田選手はとてつもない選手になるという意味のことを書きましたが、今年はそれが全くなかった。良い調整ができた以外に、なにかメンタルで成長できた理由はありますか?
[浅田] 自分はもともとちょっと悪役やったと思うんですけど、それで批判もされたりしましたが、今年は俄然応援してくれる人が増えたんですよ。それが、今年これだけの成績を収められた一番の理由やと思います。試合会場にも、年間通して全試合を実費で一緒にまわって下さるファンの方も増えましたから、勝つところを見せたい、迷惑をかけたくない、見せる試合をしたい、落ち着いて試合がしたいという意識がありました。
もともと、些細なことがきっかけやったんですよ。自分のプレー以外の。例えば、自分が投げてる横でどうしてワールドカップの中継をディスプレイ―で放映しているのかとか、そういうことにイライラしてプレーに影響していました。それから、僕は関西なんで、どうしても関東で試合するときは相手の応援が多くてアウェー感が強く、それが嫌でイライラしたりもしていました。でも、今年は数では負けていても、大きな声で声援を送ってくれるファンがついていましたから、そんなことは飛び越えて、自分はどんとしていればいいんだと思えるようになりました。
――ファンに助けられたと?
[浅田] そうです。試合を応援してくれるだけやないんです。試合の合間には僕の体調を気遣ってお茶出してくれたり、僕が気持ちよく試合に臨めるようにいろいろなフォローをしてくれました。僕より先にトーナメント表を見て、今回はここに気を付けてとか、本当に助けてもらいました。技術的には実力は去年までとなんも変わってないんですよ。つまらないことを気にしたり、アウェーで力が出せなかったりで勝てないことが多かったんです。ファンの支えもあって、それがなくなって実力が出せたのだと思います。
「まだ早いぞ、って言われたような気がします」
――浅田さんにとって、今年のベストマッチは?
[浅田] 勝った試合は広島準決勝のヤンマー(山田勇樹選手)戦。負けた試合では最終戦のヤンマーとの決勝です。ヤンマーはダーツでは先輩ですし、トリニダートに誘ってくれたのもヤンマーです。最終戦の決勝はフルセットフルレグになりましたけど、最後に「まだ、早いぞ」って言われたような気もします。
2015 PERFECT 第8戦 広島 「準決勝」
山田 勇樹(先攻) | 浅田 斉吾(後攻) | |||||||
1st | 2nd | 3rd | to go | 1st | 2nd | 3rd | to go | |
T5 | T5 | 20 | 451 | 1R | T20 | 20 | T20 | 361 |
20 | 20 | T20 | 351 | 2R | T20 | T20 | T20 | 181 |
20 | T20 | T20 | 211 | 3R | 20 | T20 | T20 | 41 |
20 | 1 | T20 | 130 | 4R | 9 | 16 | D8 | WIN |
浅田 斉吾(先攻) | 山田 勇樹(後攻) | |||||||
1st | 2nd | 3rd | to go | 1st | 2nd | 3rd | to go | |
T20 | 20 | T20 | 80 | 1R | T19 | T19 | T19 | 114 |
T20 | T20 | T19 | 200 | 2R | T17 | T17 | T17 | 182 |
– | – | T20 | 260 | 3R | T17 | T17 | T20 | 284 |
18 | 18 | T18 | 296 | 4R | T17 | T18 | T17 | 386 |
T16 | T16 | T16 | 392 | 5R | T17 | 16 | T16 | 437 |
T15 | T15 | T17 | 437 | 6R | OBL | T15 | IBL | 437 WIN |
山田 勇樹(先攻) | 浅田 斉吾(後攻) | |||||||
1st | 2nd | 3rd | to go | 1st | 2nd | 3rd | to go | |
20 | T20 | T20 | 80 | 1R | T19 | 19 | T19 | 76 |
20 | 20 | T19 | 120 | 2R | T18 | T18 | T20 | 130 |
T17 | T17 | T18 | 171 | 3R | 16 | 16 | T16 | 162 |
T17 | T16 | 15 | 222 | 4R | T15 | 15 | T15 | 222 |
T17 | T15 | T17 | 324 | 5R | IBL | IBL | OBL | 272 |
IBL | IBL | – | 324 WIN |
6R | – | – | – | – |
浅田 斉吾(先攻) | 山田 勇樹(後攻) | |||||||
1st | 2nd | 3rd | to go | 1st | 2nd | 3rd | to go | |
T20 | T20 | T20 | 321 | 1R | T20 | 20 | 20 | 401 |
T20 | T20 | T20 | 141 | 2R | T20 | T20 | 20 | 261 |
T20 | 19 | 10 | 52 | 3R | T20 | T20 | T20 | 81 |
20 | D16 | – | WIN | 4R | – | – | – | – |
山田 勇樹(先攻) | 浅田 斉吾(後攻) | |||||||
1st | 2nd | 3rd | to go | 1st | 2nd | 3rd | to go | |
– | 20 | T20 | 20 | 1R | – | T19 | T19 | 57 |
T20 | 19 | – | 80 | 2R | T19 | T20 | 19 | 133 |
– | T17 | T17 | 131 | 3R | T17 | 19 | 19 | 171 |
– | T18 | T18 | 185 | 4R | T19 | T18 | T19 | 285 |
T16 | 19 | 16 | 201 | 5R | T16 | T19 | 15 | 342 |
T15 | T15 | 15 | 261 | 6R | 15 | 15 | IBL | 342 |
OBL | OBL | OBL | 261 | 7R | IBL | – | – | 342 WIN |
「PERFECT10周年に初年度から参戦のプレイヤーとして年間王者を」
――最後に、来年の目標をお願いします。
[浅田] 来年はPERFECT10周年です。初年度からの参加で全戦回っているのは7、8人で、その中にヤンマーと僕がいます。ですから、記念すべき年に、初年度から参戦のプレイヤーとして是非とも総合1位を取りたいと思います。
それから、海外の試合にも力を入れたいと思っています。まずは1月のレイクサイド。そして4月に香港で開催されるADA。去年知野君が各国一人しか出場できないスーパーワンで日本人初優勝したときは、ほんまに嬉しかったんですが、今度はやっと自分が出場できるので、今度は自分が優勝したいという気持ちが強いです。
主戦場はPERFECTですが、海外の大会でしっかり結果を出して、世界最高峰のPDCにも挑戦したいと思っています。
(終わり)
- 【Leg15】大内麻由美 覚醒したハードの女王
- 大内麻由美(3)最初から上手かった
- 大内麻由美(2)父の背中
- 大内麻由美(1)「引退はしません。後は、年間総合優勝しかありません」
- 【特別編】2016 年間チャンピオン - インタビュー
- 大城明香利 初の3冠に輝いたPERFECTの至宝
- 浅田斉吾 年間11勝 ―― 歴史を変えた“ロボ”
- 【Leg14】知野真澄 みんなの知野君が王者になった。
- 知野真澄(6)「ちゃんと喜んでおけばよかったかな」
- 知野真澄(5)「絶対に消えない」
- 知野真澄(4)10代の「プロ」
- 知野真澄(3)「高校生なのに、上手いね」
- 知野真澄(2)お坊ちゃん
- 知野真澄(1)3冠王者誕生
- 【Leg13】今野明穂 うちなーになった風来女子、その男前ダーツ人生
- 今野明穂(6)お帰り
- 今野明穂(5)プロの自覚
- 今野明穂(4)どん底
- 今野明穂(3)ニンジン
- 今野明穂(2)沖縄に住みたい
- 今野明穂(1)今野 Who?
- 【Leg12】山田勇樹 PRIDE - そして王者は還る
- 山田勇樹(6)がんからのプレゼント
- 山田勇樹(5)…かもしれなかった
- 山田勇樹(4)決断と実行
- 山田勇樹(3)強運伝説
- 山田勇樹(2)「胃がんです」
- 山田勇樹(1)順風満帆
- 【Leg11】一宮弘人 この手に、全き矢術を
- 一宮弘人(5)ダーツを芸術に
- 一宮弘人(4)負けて泣く
- 一宮弘人(3)ダーツに賭けた破天荒人生
- 一宮弘人(2)「自由奔放に生きてやる」
- 一宮弘人(1)「いずれは年間王者になれると信じています」
- 【Leg10】門川美穂 不死鳥になる。
- 門川美穂(6)復活の時を信じて
- 門川美穂(5)帰って来た美穂
- 門川美穂(4)死の淵からの帰還
- 門川美穂(3)3.11――死線を彷徨った
- 門川美穂(2)PERFECTの新星
- 門川美穂(1)鴛鴦夫婦
- 【Leg9】大城明香利 沖縄から。- via PERFECT to the Top of the World
- 大城明香利(4)「5年後に世界を獲れたら面白いですね」
- 大城明香利(3)「ダーツにだったら自分のすべてを注げる」
- 大城明香利(2)勧学院の雀
- 大城明香利(1)決勝に進むのが怖くなった
- 【Leg8】谷内太郎 - The Long and Winding Road ― 這い上がるダンディ
- 谷内太郎(4)失われた4年。そして
- 谷内太郎(3)「竹山と闘いたい」
- 谷内太郎(2)「レストランバーの店長になっていた」
- 谷内太郎(1)「長かった」
- 【Leg7】樋口雄也 - 翼を広げたアヒルの子
- 樋口雄也(4)「ダーツは自分の一部です」
- 樋口雄也(3)テキーラが飛んでくる
- 樋口雄也(2)理論家の真骨頂
- 樋口雄也(1)悲願の初優勝
- 【Leg6】浅田斉吾 - 「浅田斉吾」という生き方
- 浅田斉吾(6)家族――妻と子
- 浅田斉吾(5)兄と弟
- 浅田斉吾(4)両刃の剣
- 浅田斉吾(3)「ラグビー選手のままダーツを持っちゃった感じです」
- 浅田斉吾(2)「最速は、僕です」
- 浅田斉吾(1)「今季の目標は圧勝です」
- 【Leg5】今瀧舞 - 熱く、激しく、狂おしく ~ダーツに恋した女
- 今瀧舞(6)「現役を引退しても、ずっとダーツと関わっていたいと思います」
- 今瀧舞(5)「ダーツがやりたくて、離婚してもらいました」
- 今瀧舞(4)涙の訳
- 今瀧舞(3)「神様は超えられる試練しか与えない」
- 今瀧舞(2)「観客席の空気を変えるダーツがしたい」
- 今瀧舞(1)「ダーツを始めてから、テレビはほとんど見ていません」
- 【Leg4】前嶋志郎 - ダーツバカ一代
- 前嶋志郎(3)「ダーツ3本持ったら、そんなこと関係ないやないか」
- 前嶋志郎(2)「ナックルさんと出会って、人のために何かがしたい、と思うようになりました」
- 前嶋志郎(1)「ダーツ界の溶接工」
- 【Leg3】浅野眞弥・ゆかり - D to P 受け継がれたフロンティアの血脈
- 浅野眞弥・ゆかり(4)生きる伝説
- 浅野眞弥・ゆかり(3)女子ダーツのトップランナー
- 浅野眞弥・ゆかり(2)「D-CROWN」を造った男
- 浅野眞弥・ゆかり(1)「PERFECTで優勝するのは、簡単ではないと感じました」
- 【Leg2】山本信博 - 職業 ダーツプレイヤー ~求道者の挑戦~
- 山本信博(6)「結局、練習しかないと思っているんです」
- 山本信博(5)「1勝もできなければ、プロは辞める」
- 山本信博(4)「ダーツはトップが近い、と思ったんです」
- 山本信博(3)「ぼくだけだと思うんですけど、劇的に上手くなったんですよ」
- 山本信博(2)「余計なことをあれこれ考えているときが、調子がいいんです」
- 山本信博(1)「プレッシャーはない。不振の原因は練習不足」
- 【Leg1】小野恵太 - 皇帝の背中を追う天才。
- 小野恵太(4)「星野さんを超えた? まったく、足元にも及びません」
- 小野恵太(3)「プロなんて考えたことありませんでした。運がよかったんです」
- 小野恵太(2)「こんなに悔しい思いをするんなら、もっと上手くなりたいと思ったんです」
- 小野恵太(1)「試合に負けて、あんなに泣いたのは、初めてでした」
○ライター紹介
岩本 宣明(いわもと のあ)
1961年、キリスト教伝道師の家に生まれる。
京都大学文学部哲学科卒業宗教学専攻。舞台照明家、毎日新聞社会部記者を経て、1993年からフリー。戯曲『新聞記者』(『新聞のつくり方』と改題し社会評論社より出版)で菊池寛ドラマ賞受賞(文藝春秋主催)。
著書に『新宿リトルバンコク』(旬報社)、『ひょっこり クック諸島』(NTT出版)などがある。